現代日本と宗教

現代における宗教の役割

近代以降の宗教

近代、幕末期〜明治以降に設立された宗教団体のことを、それまでの既存の宗教と区別して新興宗教と呼びます。さらに1970年代以降に成立した宗教団体を新新宗教と呼ぶ見方が広く使われるようになっています。
参考:〈新新宗教〉概念の学術的有効性について PDF

新興宗教の多くは教祖が現世における救いを説きます。社会の変動期に台頭する新興宗教において、一般庶民の不安や生きがいの模索への解答、社会的改革への希望や要求をかなえるという主張をする団体もみられます。

古代・中世から近代にかけて、宗教とは広く救いをもとめる人の心に起因し、それを利用し発展してきたものでもあります。救いを求めるのは背景に苦境があるからです。それは古代においては気候風土といった環境によるものであり、文明期に入っては時代の社会情勢によるものでありました。

現代の社会

宗教統計調査

20世紀後半以降の現代、社会を語る上でインターネットの存在は欠かせないものとなっています。1995年にインターネットが日本に入ってきて以来、1996年のYahoo! JAPANサービス開始、2000年に「Google」の日本語検索サービス、アマゾンのサービス開始を皮切りに、平成25年にはインターネット普及率が80%に達し、異常と言っていいスピードで社会のIT化が進んできました。
参考:総務省 基本データと政策動向

マスメディアからマルチメディアへ、インターネットによって情報への入り口が増えたことで情報の隔離が難しくなりました。カルト教団のような、自分たちの教義が「絶対的に正しい」と信じ込ませて信者に信仰を要求するケースは存続が難しくなったと言える反面、個別に不特定多数と双方向のコミュニケーションをとることができるマルチメディア的インターネットでは、一定の情報に信憑性を持たせることも可能です。情報の取捨選択に良識と判断力が必要とされるようになり、SNSやソーシャルゲームのようなネット上の社会も存在する現代、ネチケットなどの「情報モラル」を教育に取り入れる動きも活発になってきています。

現代日本と宗教

時代が変わるにつれて土着の習俗・しきたりといったものは、その本来の意味や内容を薄くし、新たな意味づけがなされ共に変化してきました。

衣服を例にすると、古来その土地の気候や風土に合わせ、生活に迫られて確立されてきた民族衣装は必要がなくなり、日本でいえば明治維新ののちには和装から動きやすい洋装へと変化してきました。さらに現代では、ブランド衣服をレンタルするサービスが増え、衣服は借りるものであるという常識が出来上がろうとしています。ITの隆盛が資本主義によるマーケティングを加速させ、衣類の生産者たちは消費者のワードローブを管理し購買行為に誘導する時代です。
参考:オフィスカジュアルの着回し術 ワードローブって?
参考:日本経済新聞出版社 アパレル・サバイバル | 齊藤 孝浩 著|

現代の人が宗教に求めるものを考える上で、面白いサイトがあります。実際に仏教の僧侶の方達に、日常生活の悩みや疑問などを質問できる人生相談サイト「hasunoha」です。
参考:hasunoha お坊さんが必ず答えてくれる お悩み相談サイト
サイトを見てみると、「毎日がつらすぎて死んでしまいたい」「人とのコミュニケーションがしんどいです」「子供が登校を嫌がります」といった質問が寄せられています。このサイトについて面白い分析をしている記事があり、紹介させていただきます。

(引用)2015年末にhasunohaに寄せられた質問の傾向を分析したところ、およそ3割は「自分の心の持ち方」に関する質問で、2割強あった仏教の教えとお寺や僧侶に関する質問よりも断然多かったそうです。そして、全体の2割で「人間関係」の質問が続きます。この傾向は月日を経るたびに強まっているとのことです。
引用:シニアガイド 古田雄介のネットと人生 第3回:宗教はインターネットに宿るか - 僧侶相談サイト「hasunoha」という回答

Hasunohaが「人生相談サイト」と評されることからも、相談者の方それぞれの苦境から逃れるための方法を求めていることが伺えます。ポイントは質問の内容の統計を取っている、という所でしょう。
仏教の教えとお寺や僧侶に関する質問、これは知識的な事柄であって、宗教、とくに信仰の心を持って行う意味合いでの宗教を求めての質問ではないでしょう。興味深いのは、質問のおよそ3割は「自分の心の持ち方」に関する質問で、全体の2割が「人間関係」の質問ということです。貧富の差、格差社会という言葉が取り沙汰されこそすれ、大抵の人が実際に生きていけないような状況には陥らない仕組みが築かれている現代の日本において、人を悩ませる苦しみの多くは、自らの生き方、人間関係に集約されるということなのかもしれません。とくに20〜30代の人々にとってネット社会は身近であり、情報過多によって選択の幅が広がることで、自らの生き方を選ぶことがより困難になっているという見方も可能です。中世から近代にかけての封建主義からの開放、さらに国家主義の崩壊から現代にかけての2重の歴史的流れも背景にして、アイデンティティの確立は、近現代に生きる人々にとって彼らの人生の命題の多くを占めるものであると考えられます。自らのアイデンティティを実現する術を探求しつつ、社会における他者との関わりの充足、すなわち良好な人間関係を築くことが、現代における「苦」からの救済に当たるのではないでしょうか。

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